小国杉について

ものがたりのある素材

ものがたりは、江戸時代にまでさかのぼります。
ずっしりと身がつまり、ほんのりピンク色を帯びた木肌の風合いと特有の粘り。小国杉のふるさと、熊本県阿蘇郡小国町は、阿蘇外輪山の外側、筑後川上流にある静かな山里です。

町の面積の8割が山林で、江戸時代から林業が盛んだった小国町。

1758年(宝暦4年)、藩命により始まった小国の林業は、以来250年にわたり、荒廃の危機にあいながらも、先人たちの知恵と努力によって脈々と伝えられてきました。現在は、住宅だけでなく九州国立博物館の収蔵庫にも使われており、小国杉だけが持つ強さと優れた調湿効果には定評があります。

風土に根ざし、ゆっくり育つ。

肥沃な土壌、冬の寒さ、そしてたくさんの雨。小国杉は、よい杉を生み出すのに適した環境で、長い時間をかけて育ちます。小国杉の品種は、粘りが強く折れにくい「ヤブクグリ」と「アヤスギ」の2種類。明治時代以降、先人たちがこの土地に合う品種を厳選し育てることで、質がよくて均一な材が生み出されているのです。また、小国杉は多くの人の手によって守り育てられています。

杉の苗木は、一本、一本、くわで植えられ、10年間ていねいに下草を刈ります。その後は木が混み合って成長の妨げにならないよう、間引き刈りを行い、大切に育てられます。杉が好む環境で、大切に育てられた杉だからこそ、わたしたちは心地よく暮らせるのです。

家族のふれあいが増すごとに木調もアメ色へと変化する。

数十年という時を森で過ごした小国杉の真新しい木肌や香りは、心地よいものです。しかし、時を経てアメ色に変化した小国杉は、さらに味わい深く、わたしたちの暮らしに寄り添ってくれます。太陽の光を浴びたり、風に吹かれたり、家族とともに時を重ねることで、少しずつ深い色合いを増していきます。

呼吸する木のぬくもりに包まれ、味わいを増す。

木材となった小国杉は、「住まい」という形になってからも、ゆっくりと呼吸をしています。湿度が高いときは湿気を吸収し、乾燥しているときは水分を放出して湿度を保ってくれます。また、木が発する香りの成分は「フィトンチッド」と呼ばれ、ストレスをやわらげたり、心身を落ち着かせ、疲れを癒す力があります。杉山に入ると爽快な気分になるのは、そんな木々が持つ力によるものです。太陽や大地の力をすくい取った小国杉のぬくもりに包まれる暮らしは、心と体を健やかに保ってくれます。

そびえ立つ小国杉が放つ香りに包まれる杉林。手塩にかけて育てた小国杉は、60年以上の時を経た後に伐採され、木材として再び命を与えられるのです。